何となくタイトルに惹かれ、AmazonPrimeで視聴。
しばし呆然として動けなくなるくらい感動しました。明るいテーマではありませんが、心に残る一作です。
満足度:★★★★★
2016年:フランス、ベルギー
上映時間:104分
監督:カテル・キレヴェレ
出演:タハール・ラヒム、エマニュエル・セニエ、 アンヌ・ドルヴァル、ドミニク・ブラン、フィネガン・オールドフィード
あらすじ
ル・アーブル。夜明け前、恋人がまどろむベッドを抜け出したシモンは事故に合い脳に重傷を負ってしまう。シモンの両親は脳死であることを告げられ、臓器提供に同意するか決断を迫られる。
パリ。心臓に疾患を抱えたクレールに残された道は心臓移植しかないと伝えられているが、初老の自分が誰かの心臓をもらってまで生き延びるべきなのか決意できずにいる。
ふたつのストーリーがやがて重なり・・。
感想
脳死と臓器移植。
難しいテーマが美しい音楽と映像で綴られていて、心が震えました。
台詞はごく少なく、ほとんどが情景描写のため、いやがおうにも観る者の想像力が駆り立てられます。
物語は一人のティーンエイジャーの青年が恋人のベッドを抜け出すところから始まります。まどろむ恋人にキスして、仲間と早朝のサーフィンに出かける彼。
楽しそうに波に乗り、けれど、その帰り道、仲間の運転していた車が事故にあい、彼は脳に重大な損傷を受けてしまいます。事故の原因については語られず、ただ運転手含めた3人のうち、後部座席でシートベルトをしていなかった彼だけが重傷だったと・・・。(事故の描写は運転席の彼が巨大な波に襲われる描写から、居眠り運転であると思われ、なんともやるせません。)
病院に呼び出された彼の両親は医師から「脳死である」と告げられ、「臓器移植に同意するか」を尋ねられます。
病院のベッドで確かな鼓動をうっている青年、若すぎる、あまりに突然の出来事。けれど、臓器移植に同意する場合、返答に残された時間はわずかで・・・。
2人は離婚しているのですが、寄り添い合い、決断までの時を過ごします。けれど彼らがそれについて話し合う過程は一切ありません。
悲しみと苦しみ、いや、むしろ困惑や呆然といった方がふさわしいかもしれない2人の表情と様子が映し出され、その合間に生前の青年の姿が優しい音楽と柔らかい光の中に映し出されていきます。
魅力的な女の子を見つけ、熱い視線を送り、やがて恋に落ちていく2人。あまりに美しいそのシーンは彼がもう生きていないということを強烈な悲しみに変えていきます。
一方、物語の軸は青年が住んでいるル・アーブルからパリへ。
初老の女性音楽家に焦点がうつっていきます。彼女は心臓疾患を抱えており、医師から残された道は「心臓移植」しかないと告げられています。
けれど、老い先、さほど長くはない自分が誰かの心臓をもらってまで生き延びる必要があるのか?女性の心は定まりません。
それぞれが少し問題を抱える2人の息子たち、別れを告げた元恋人、彼女は大切な人たちと過ごすことで移植を希望する決意を固めます。
ここでもまた多くのことは語られません。
息子たちの抱える問題も断片的に見せられるだけだし、元恋人との過去のいざこざもあっさり匂わせる程度です。けれど、そこにはそれぞれへの思いやりや愛を感じる部分が感じられ・・・。
とてもしんしんと心にしみてくるのです。
女性の「心臓移植を希望する」という決意。
青年の両親が「臓器移植に同意する」という決断。
ル・アーブルとパリ、それぞれの場所での想いが交錯して、物語をエンディングに導いていきます。
青年の両親は「目だけは残して、他の臓器は提供します」と医師に伝えるのですが・・・
その想いに胸が締め付けられました。
もし自分がその立場だったら、どうするか?そんなのとても考えられませんが・・・
一切の説明を省き、台詞もおさえめに、ひたすらに美しい音楽と映像で綴られていく物語にただただ圧倒され、見終わった後はしばらくじーんとして動けませんでした。
あとから、この映画の日本のイメージソングが映画製作前に作られていた秦基博さんの「朝が来る前に」という曲であることを知ったのですが・・・たまたま邦題が同じだったというだけでなく、見事に本作とリンクしていて、またさらに胸が震えました。
映画も曲も本当におすすめなので、機会があればぜひご覧になってみたくださいね。
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